board meeting 010 2/2




「雨宿りのついでに、可愛らしくてお似合いなおふたりで店先を盛り上げてくださると、これ幸い」
「通りがかりのマスコットでいいんですか?」
「オフコース。これも何かの縁ってね」
 向日葵が、彼女の手の中で鮮やかに存在を主張している。
 芯の通ったその力強い花は、彼女にとてもよく似合っていた。
「このまま写真に撮って飾りたいとこだね」
「えぇっ」
「本当にそうですよね」
 彼の提案に思わず頷くと、彼女が「麗さんまでそんなこと言って」とはにかんだ。

「麗さん」
 ――それは、なんて優しい音なんだろう。

 僕は思わず、彼女の手を握る。
「おや」
 目を細めて僕を見た彼は、またニヤリと笑った。
 丁度奥から「店長ー」と呼ぶ声がして、彼は「ごゆっくり」と含み笑い。
「向日葵ありがとうございました」
「いいえぇ」
 その背中にもう一度お礼を言って、僕は彼女に向き直る。
「麗さん?」
 気が付くと、訝しげな表情で彼女がこちらを覗き込んでいた。

 僕は、握った手に少しだけ力を込める。
 急いて手に入れることも不可能じゃないけれど、マイペースで、急ぐ必要なんかなくて、ほんの少し近づいただけで高鳴るこの気持ちが愛しいと思った。
 それからもちろん、彼女のことも。

「やっぱり、あなたが好きです」

「…麗、さん」
 唐突な僕の台詞に潤う瞳が見つめ返してくるのが、どうしようもなく愛しかった。
 困ったように寄る細い眉も、紅をはたく必要のない紅い頬も、少し上ずる呼ぶ声も、全部。
 雨はまだ止まない。
 アスファルトに雨が降るたびに、僕は、今日の彼女を思い出すことだろう。

 僕はそれ以上何も言わずに、ただ降りしきる雨を眺める。
 やがて彼女の視線がふいと僕から逸れて、同じ雨を眺めはじめた。無言で握り返してくれた手が嬉しい。
 鉢植えと並んだ花屋の軒先で、片手には向日葵で。夕暮れた雨の街角に溶け込みながら、僕はもう一度だけ彼女に告げた。

 ――僕はやっぱり、あなたが好きです。


 -fin-


special thanks for 斎川直斗




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